英語(English)に関するエッセイ


団塊の世代の大量定年時代と翻訳熱の高まりに想う

日本では、1947年乃至1949年生まれが2007年から2010年にかけて一斉に定年退職の時期を迎えます。団塊世代の第二の人生が話題に上らない日はありません。彼らは、日本の総人口の5%強を占める世代であり、日本の将来に大きな影響を与えるといわれています。

この世代の少なからぬ人たちが、翻訳、特に産業翻訳の世界に興味を持っているようです。その理由はさまざまでしょう。しかし、ハードルはかなり高いと覚悟していただきたいものです。翻訳の世界では、必要スキルとして、英語力・専門知識・日本語が三種の神器として挙げられます。そして、この世代が受験戦争・出世競争で揉まれたということもあり、翻訳の仕事を始めるにあたってもかなりの自信をお持ちのようです。しかし、その自信は客観的に評価される必要があるでしょう。

まず、英語力ですが、一番マーケットが大きい産業翻訳についていえば、英検やTOEICの点数と翻訳家の仕事の質との間にはほとんど相関関係がないといわれています。また、社内で翻訳業務の経験があっても、翻訳だけで生活したことはないでしょう。身内の評価ほど甘いものはないのです。次に、専門知識ですが、入社して以降定年まで、最先端の専門知識に身を置いた人はほとんどいないはずです。日進月歩の世界なのです。5年も経てば最先端知識もレガシーに成り下がる昨今です。最後に日本語。これが一番問題とするところです。日本人だから日本語ができるというのは迷信・妄想の類にすぎず、意識的な勉強が必要となります。しかし、団塊の世代は仕事漬けの毎日で、会社の書類とスポーツ新聞以外は何十年も見たことがないというのが現実ではないでしょうか。この国の読書に関する調査でも一番本を読まないのが中高年サラリーマンといわれています。

つまり、仕事で英語を使ってきたから、専門家だから、日本人だからといって、産業翻訳(英日)が明日からできるわけではないのです。さらに加えて、団塊世代が翻訳家になるためのやっかいなハードルがもう1つ存在します。それはIT技術です。

今の翻訳業は、ITなしでは不可能です。高速PCだけでなく、作業を中断されないための予備PC、無停電装置 ( UPS ) も装備したいものです。自分で案件を選べない以上、各分野に対応するための辞書CDも通常の英和 ・ 和英辞典に加えて大量に必要となりますし、それを高速で検索する専用ソフトも必須です。現在の案件ではトラドスやSDLXなどの翻訳メモリの必要が義務づけられているのでこれらも購入する必要がありますし、これらのソフトはワープロソフト操作より遙かに難解で、操作技術の習得に時間がかかります。ワードやエクセル操作の習得、常時接続のネットワーク環境やファイルのやりとりに使用するFTPやメール操作の知識、さらに、案件ごとの契約となるため依頼元が海外であればビジネスレターの基礎知識や送金や為替に関する基礎知識など、翻訳でそれなり ( 年収300万を超える人は驚く程少ない ) の所得を得るためには、キャリアの打ち直しに匹敵する努力が必要なのです。

それでも、とあえていわせていただきたい。定年世代には、この業界に参入して欲しいと。翻訳業界はまだまだ黎明期なのです。新しい発想で新しいビジネスを立ち上げるチャンスがあります。日本経済の活性化のためにも、”濡れ落ち葉”といわれないためにも、団塊の世代の参戦に是非期待したいものです。


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